砂の王国(上)
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- ¥880
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発行者による作品情報
全財産は、3円。私はささいなきっかけで大手証券会社勤務からホームレスに転落した。寒さと飢えと人々からの侮蔑。段ボールハウスの設置場所を求め、極貧の日々の中で辿りついた公園で出会った占い師と美形のホームレスが、私に「宗教創設計画」を閃かせた。はじき出された社会の隅から逆襲が始まる!(講談社文庫)
APPLE BOOKSのレビュー
5度目のノミネートを経て『海の見える理髪店』で第155回直木賞を受賞した荻原浩による、4度目の直木賞ノミネート作『砂の王国』。上下巻合わせて992ページの大作だが、過去の栄光にこだわる愚痴っぽい主人公の心境がポップな文体で語られ、ニヤニヤしながら一気に読み進んでしまう。上巻は、大手証券会社のディーラーから野宿生活に落ちぶれた山崎が、一発逆転を狙ってある事業を立ち上げるさまがコミカルに描かれる。所持金3円の山崎が寒空の下たどり着いた公園で、自称占い師の龍斎と、モデルのような顔立ちとピュアな笑顔が魅力の公園の主、仲村と出会う。あり余る時間を人間観察に費やして導き出した社会への復讐(ふくしゅう)とは、新興宗教“大地の会”を立ち上げて、大金を手にすることだった。前半、食糧調達で一日が暮れる路上生活の描写が秀逸。荻原の取材力にユーモアのセンスが掛け合わされて、悲惨なのに笑いが込み上げてしまう。迷える人の弱みを嗅ぎ取り、信頼させる龍斎の卓越したトーク術は、下巻に大きな影響を与えている。